小児特定加算は地域支援体制加算の算定の要件に新たに加わった加算です。
これまでに名を連ねてきた要件とは毛色の違う雰囲気で驚いた方や、
「医療的ケア児」というワードを見ただけで難易度が高いと諦めている方も多いのではないでしょうか。
私自身も、最初にこの加算を知ったときはこのように思いました。
- 算定方法や対象の患者がわからない
- 難しい要件で尻込みしてしまう
- この要件がどうして地域支援体制加算の要件になったのか
小児特定加算のハードルがそのほかの加算に比べて高いのは事実です。
自分の所属店舗では対象の小児など来局しないから無縁の加算だと思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、実は対象の患者は頼れる薬局を見つけられずに困っているのです。
本記事では、
- 小児特定加算の概要、算定要件、算定の意義
- どのような患者にどのように算定可能なのか、手帳の記載内容はどんな内容か
- 加算の対象患者にどうやって出会うのか
をわかりやすく解説していきます。無縁だと思っていたあなたの薬局にも、算定の機会が巡ってくるかもしれません。
筆者は薬剤師歴7年、某薬局グループでエリアマネージャーをしており、小児薬物療法認定薬剤師の資格を所有。小児在宅患者の訪問診療に同行した経験もあります。もちろん、小児特定加算の算定実績もエリア内で複数回経験済みです。その過程で得た知見を本記事で皆さんに紹介したいと思います。
小児特定加算の算定要件・年齢
まずはこのおさらいから始めましょう。これが算定要件の原文です。
児童福祉法(昭和22 年法律第164 号)第56 条の6第2項に規定する障害児である18 歳未満の患者に係る調剤において、患者又はその家族等に患者の服薬状況等を確認した上で、当該患者又はその家族等に対し、当該患者の状態に合わせた必要な薬学的管理及び指導を行った場合に算定する。
ここでの薬学的管理及び指導とは、
- 患者の服薬状況及び服薬管理を行う際の希望等について、患者又はその家族等から聞き取り、当該患者の薬学的管理に必要な情報を収集する。
- ①において収集した情報を踏まえ、薬学的知見に基づき調剤方法を検討し調剤を行うとともに、服用上の注意点や適切な服用方法等について服薬指導を行い、その内容を手帳に記載する。
この一連の行為を指します。
この加算は、児童福祉法(昭和22 年法律第164 号)第56 条の6第2項に規定する障害児、いわゆる医療的ケア児が算定対象となっております。
医療的ケア児とは、「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である18歳未満の児童(18歳の卒業前の高校生等を含む)」と定義されています。
読んだだけでは理解しづらい言葉が並んでいますが、
医療的ケア=「日常生活に必要とされる医療的な生活援助行為」です。
医療的ケアの一例を下記にまとめました。
算定要件の詳細はこちら↓
小児特定加算の算定対象 医療的ケア児とは
従来、大島分類の1~4のカテゴリの患者を重症心身障害児と分類しておりました。
重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している子どものことで、全国で約43,000人ほどいると推計されています。
医療的ケア児は大島分類の枠組みでは当てはまらない新しい分類であり、呼吸器をつけたほぼ寝たきりの患者もいれば、一般の子供たちと同様に日常生活を送ることができる患者もいます。障害の有無や程度は問わず、日常的な医療的ケアの必要性が判断基準となっています。現在すでに20,000人を超えていると推計されています。
医療的ケア児の概念については、こちらの図をご覧ください。
出典:厚生労働省 医療的ケア児の支援に関する施策と保健、医療、福祉、教育等の連携について
新しい概念である医療的ケア児は、明確な定義や区別が難しいです。
日常生活に全く問題はないのに医療的ケア児に該当することもあります。
今回解説している小児特定加算の算定においては「医療的ケア児である」必要があるため、
- 身体障害者手帳や療育手帳などの発行を受けているか
- 日常的な医療的ケアを必要としているか
を処方発行元もしくは患者家族に確認しましょう。その上で処方内容を確認し、
下記のような内容の処方内容であれば、算定できる可能性が高い患者であると言えるでしょう。
- 1回服用量 0.05錠 1.67Cp などの既存規格にない処方がある
- 別包指示が多く、ホチキス等を使用しないと服用時点毎にまとめられない
- 定期的な経腸栄養剤の処方がある
現時点で算定対象者がいない場合は、医療的ケア児の情報を集める必要があります。
詳細は、「4.算定対象者がいない薬局がすべき2つのこと」にて解説します。
小児特定加算 算定までの流れ
①服用薬剤の確認・服薬支援の必要性の検討
患者に対してあるいは患者家族に対しての服薬支援の必要性について検討します。
必要と考えられる服薬支援の一例を下記にまとめてみました。
- 服用時点ごとの計量混合による家族負担の軽減
- 患者状態による薬剤の調整や別包対応
- 規格単位に満たない微調整の粉砕対応(1回に0.05錠、脱カプセルなど)
(例)同一服用時点の薬を可能な範囲で一包化し、薬学的に一包化できない別包や個包装の薬も管理が簡便になるような工夫を施す。
(例)便通調整薬や去痰薬など、体調に応じて定期内服から除外される薬剤についてもその調整が容易になるような配薬の工夫を行う。
介護者の負担軽減策や体調変化による頻回な介入等も医療的ケア児に必要な服薬支援に含まれるでしょう。
②医療的ケア児であることの確認
上の段落で述べたように、医療的ケア児であることを確認する必要があります。
各都道府県から発行される身体障害者手帳、療育手帳等を所持しているか確認します。
続けて、経管栄養・気管切開・痰の吸引・IVHなどの継続的な医療デバイスを用いたケアの有無を確認します。
この段階で医療的ケア児に該当しない場合でも服薬支援の必要性があると判断した場合は、
外来服薬支援料や服薬情報等提供料を算定可能ですので、こちらのリンクも合わせてご確認ください。
③支援の内容や注意点等を手帳に記載
手帳への記載に関しては実施した支援の内容や、その患者に必要な指導を記入します。
障害の程度によって介入の内容は様々ですが、基本的には乳幼児服薬指導加算と同様の考え方で問題ないでしょう。
当然ながら乳幼児加算との併算定はできません。
(手帳記載例):服用時点や時間を記載した上で一包化し、別包分をホチキスでまとめました。
通常の規格単位よりも少量のため粉砕および賦形を行っておりますが、服用時は全て懸濁可能です。
④服用期間中の随時相談対応
使用しているデバイスの種類によっては、服用後の機器の管理や手入れが必要なケースや体調変化時の投与経路の変更なども想定されます。
また、状態が良くなり経管チューブではなく経口にて投与可能になるケースや、呼吸状態が不安定で胃瘻からの投与に切り替えるケースも考えられます。
投与経路の変更等が発生した場合に服用薬の調整方法や投与タイミングなどを再度支援することも重要です。
- 簡易懸濁が可能な薬剤であるかどうか、
- 経管での投与でめづまりなどを起こす薬剤はないか、
- 現状よりも服用が容易になる剤型はないか
上記については服用期間中に変更されることもあるため、その変更に適した薬剤変更や投与方法の検討が必要です。
介入を行った際は、その都度医師への服薬情報提供を行いましょう。
算定対象患者がいない薬局がすべき2つのこと
ここまで算定の流れについてお話してきましたが、「そもそも対象患者がいない」という薬局もあるでしょう。
しかし、そんな薬局にもチャンスはあります。
- 小児病院や訪問看護ステーション、放課後等デイサービスなど医療的ケア児が利用する施設を訪問し、
薬局にできることを周知する - 各県に配置されている、「医療的ケア児等コーディネーター」と連携する
実は、医療的ケア児を介護する家族は自宅と病院だけを行き来するだけで他の医療従事者と関わりがない方や、365日の介護の中で新たな情報を得ることが難しく、薬剤師による支援の存在を知らないままの患者家族も多いのです。
出典:東京大学家族看護学分野 上別府研究室「医療的ケアを要する児童生徒の保護者のレスパイトとQOL(生活の質)に関する調査」
出典:こどものイマを考える 第1号 2023年10月発行 成育こどもシンクタンク 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
実はあなたの薬局のすぐ近くにも悩める医療的ケア児がいるかもしれません。近隣の薬局が積極的に服薬支援を行い、介護者の負担を軽減することで患者自身と介護者のQOL向上につながるのです。
そんな患者と薬局を結び付けてくれる存在が、医療的ケア児等コーディネーターや地域包括支援センターです。
医療的ケア児等コーディネーターは訪問看護ステーションやこども療育センター等の施設に配置されています。
(県によって施設名称が異なる場合あり)
筆者も、近隣の訪問看護ステーションや医療的ケア児等支援センターへ訪問するところから始めました。
薬局も介入できるということに驚く声が多く、我々の地域貢献が不十分だったことに気づかされました。
薬局にできる医療的ケア児への介入の例を説明したところ、すぐに数件の服薬支援及び訪問薬剤管理指導による介入の相談が舞い込みました。
いずれの施設においても、医療的ケア児に対して薬剤師ができることを
知ってもらう必要がありますので、まずは出向いてみましょう。
小児在宅医の講演等でも、薬局の介入はまずはお届けからでも良いので
参入する薬局が増えてくれたら嬉しいと聞きましたよ。
小児特定加算 実際の算定例
算定の要件に相当するような処方例を紹介します。
※個人の特定を防ぐため実際の処方と一部異なる記載に変更しております。
(1) 超低出生児 経鼻チューブあり
アルファロール内用液0.5µg/ml
チラージン散0.01%
カルボシステインDS50%
ロゼレム錠8㎎
アルファロールを経管で投与する際のシリンジを用いた投与方法について指導、ロゼレムを粉砕・賦形対応。
カルボシステインに対して医師から適宜調整の指示も出ていたため、別包にて調整し、
同一服用時点毎にホチキスでまとめ、経管にて散薬を投与する際の注意点について説明を行った。
(2) てんかん重責、気管切開あり
エクセグラン散20%
ビムパットドライシロップ10%
ダントリウムカプセル25㎎
プランルカストDS10%
デパケンシロップ5%
エルカルチン内用液10%
カルボシステインDS50%
ラコールNF配合経腸用液
経腸栄養剤の受取も家族にとっては困難な作業のため自宅まで配達し、
ダントリウムの脱カプセルによる調剤を実施。エルカルチン内用液をホチキスで止め、
懸濁時の混合方法について指導を行った。
まとめ
- 地域支援の算定要件に小児特定加算が追加された
- 算定対象は「医療的ケア児」
- 算定に必要なことは
①医療的ケア児であることの確認(受給内容や医療デバイスの有無)
②服用薬剤の確認・服薬支援
③支援の内容や注意点等を手帳に記載 - 医療的ケア児の多くはまだ薬剤師の介入を受けられていない、あるいは知らない状況
- 医療的ケア児を支える医療ネットワークに薬剤師も加わってほしいというメッセージがこもった加算要件である
- 薬剤師が積極的に働きかけることで道は開ける。現場は薬剤師の介入を待っている
いかがでしたでしょうか?
ハードルが高い要件であることは間違いないのですが、算定に向けてあなたの薬局が何をしたらよいかイメージが湧いてきたでしょうか。
まず必要なのは、恐れず面倒くさがらず、行動をすることです。我々薬剤師から、「自分たちが小児医療に貢献できるぞ!」と積極的に発信しましょう。
医療的ケア児は頼りたいのに頼る薬剤師がいないのです。あなたの地域でも薬剤師の介入は確実に求められています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。皆様の薬剤師ライフのお役に立てると嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします。
記者: かい
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