薬局が在宅患者を獲得するために取り組むべきことをわかりやすく解説

在宅患者を獲得

薬局薬剤師が在宅医療の現場に出ることはもはや当たり前の時代がすぐそこまで迫ってきております。
地域支援体制加算の施設基準にも在宅応需の回数が設定され、個人在宅の訪問回数が算定要件になっています。
この記事にたどり着いた方の多くは、下記のような悩みを抱えてはいないでしょうか。

  1. 算定したいと思っているが、対象者がいない
  2. どういった流れで在宅医療を開始するかわからない
  3. 在宅医療を行う意義がどの程度なのかよくわからない

地域包括ケアシステムが構築され、他職種との連携によって地域全体で高齢者を支える取り組みが行われております。
その後に控えているのは2040年問題で、継続的な受診が困難な方や服用薬剤の管理が適切に行えない方が増えてくることが確実視されております。

訪問診療を行う在宅療養支援診療所や、訪問看護事業所の数は増加傾向ですが、訪問薬剤管理指導が実施可能な薬局の数は伸び悩んでおり、実施可能な薬局に訪問実績が集中してしまっています。
今更在宅医療に取り組むのは無理だろうと思っている方も、本記事を読んで頂ければ

  1. 薬剤師の訪問薬剤管理指導における算定要件
  2. 算定対象患者を獲得する方法
  3. 在宅医療の今後の展望

といった、在宅医療に取り組む上で必要な情報がすぐにわかります。
患者の減少や調剤報酬改定による減収に備え、すぐにでも準備を開始しましょう。

筆者は、薬剤師歴7年余、某薬局グループでエリアマネージャーをしております。グループ全店舗で在宅医療の実績があり、担当エリアでは多くの店舗が往診への動向業務も行っております。その過程で得た知見を、本日は皆さんに紹介したいと思います。

目次

1.薬剤師が行う在宅医療とは

在宅や施設で療養を行っている患者に対し、主治医の指示に基づいて薬剤師が薬学的な管理計画に基づき自宅や施設を訪問して薬歴管理、服薬指導、服薬支援、薬剤の服薬状況・保管状況及び残薬の有無の確認などを行うことです。

医療保険に基づいた「在宅患者訪問薬剤管理指導」と介護保険に基づいた「居宅療養管理指導」があり、患者が介護保険の認定を受けている場合は居宅療養管理指導が適用されます。

在宅患者訪問薬剤管理指導料居宅療養管理指導費
単一建物診療患者が1人650点518単位
単一建物診療患者が2~9人320点379単位
単一建物診療患者が10人以上290点342単位

在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定するためには、薬学的管理指導計画書および報告書を作成する必要があります。
計画書は主治医やケアマネージャーと相談の上、訪問頻度や介入の内容についての計画を記載します。
報告書は訪問時に得られた服用状況や副作用の有無等の患者の状態の変化や他職種の情報をもとに随時計画を更新していく必要があります。

  1. 名称、所在地、開設者の氏名、在宅患者訪問薬剤管理指導を行う旨を地方厚生(支)局長に届け出る。
  2. 医師の指示を受ける。
  3. 保険薬剤師が薬学的管理指導計画を策定する。
  4. 患家を訪問し、服薬指導及び支援、服用状況、保管状況、残薬の確認等を行い薬学的管理指導を行う。
  5. 当該指示を行った医師に対して訪問結果について、文書で情報提供を行う。

【算定できないケース】

  • 特別養護老人ホームや介護老人保健施設に入院・入所している患者(がん末期患者の場合は算定可)
  • 他の保険医療機関や保険薬局の薬剤師が訪問薬剤管理指導を行っている患者
  • 継続的な訪問薬剤管理指導の必要のない者や通院が可能な場合
    (例)一人で家族又は介助者等の助けを借りずに来局ができている場合

2.訪問薬剤管理指導で実施する内容

薬剤師に実施可能な支援内容は下記が考えられます。
この中で一部だけでも実施できれば患者にとっては非常に有難い存在なのではないでしょうか。

  1. 自宅や施設での服薬指導・服薬支援
  2. 医薬品や衛生用品など必要物資の調達
  3. 薬学的管理指導計画の作成
  4. 訪問診療への往診同行
  5. 訪問ごとの副作用モニタリング
  6. 複数診療科で処方される薬の一包化、残薬管理
  7. 情報提供文書を用いた多職種との情報共有
  8. その他の生活支援全般
かい

窓口での服薬指導に比べると、出来ることが多岐にわたっていますね。

3. 薬局が在宅医療の患者を獲得する方法

在宅医療の始まり方は様々ですが、どのようなケースにおいてもあなたの勤務する薬局において在宅医療に対応できることを周知する必要があります。
行政の在宅医療相談窓口などへの相談も有効です。医療機関に対して積極的にアプローチを行いましょう。

医師からの訪問指示を受ける

医療ネットワークへの参画
難易度 ★☆☆☆☆  効果 ★☆☆☆☆ 

各都道府県毎に医療ネットワークが整備されており、登録することで他職種と連携しやすくなります。
診療情報提供書訪問看護記録も閲覧が可能になり、在宅訪問開始後の情報共有ツールとしても有用です。
事前に薬局情報として時間外や麻薬・注射剤への応需体制などの登録も可能で、
医師側からの検索やマッチングによって薬局を見つけてもらうことが可能になるため、登録して損はないでしょう。

在宅医療相談窓口への相談
難易度 ★★☆☆☆  効果 ★★☆☆☆

行政の窓口も用意されています。薬局でどのような体制で在宅訪問を実施可能かをリストに登録しておくと、
患者宅から近い薬局に在宅訪問の打診が来ます。近隣の患者とのマッチングは訪問の手間や時間が少なく済みます。
主に個人在宅の訪問依頼が多いですが、地域支援体制加算の施設基準にも個人在宅の件数が設定されていますので、
まだ地域戦体制加算が算定できていない薬局は行政機関も積極的に活用しましょう。

かい

窓口への相談から1ヶ月後に、薬局近隣の個人宅の紹介を頂きました!

在宅療養支援所への営業活動
難易度 ★★★★★  効果 ★★★★☆

応需体制が整っているならば、訪問診療所へ直接赴き営業活動を行うことが最も有効です。
在宅療養支援所を掲げる医療機関へ連絡を取りアピールしていきましょう。既に連携している薬局があることも考えられるため、自身の薬局における強みを用意しておきましょう。
(例:往診に必ず同行できる・注射薬への対応が可能・施設における服薬管理の負担をより軽減できる等)

かい

私の担当エリアの薬局では在宅療養支援所中心に営業活動を行いました。薬局近隣の施設の担当薬局が少し遠く、多忙で往診同行の頻度が減っていたため、担当薬局を変更して頂けました。

ケアマネージャーや施設から訪問依頼を受ける

他職種連携会議や地域ケア会議に出席する  難易度 ★★★☆☆  効果 ★★★☆☆

地域包括支援センターが主催している他職種連携会議や、ケアマネージャーや訪問看護師が集まる退院時共同指導に積極的に参加していきましょう。
「薬剤師はただ処方された薬を自宅に届けてくれる」程度だと思われているのが現状ですので、服薬支援や処方提案が可能であることをアピールする絶好の機会です。
一度アピールに成功し、依頼を受けるようになればその後も継続的に新規の患者の訪問を依頼されるようになります。

かい

ケアマネとの連携も個人宅の依頼を受けるための近道です!

施設への営業活動
難易度 ★★★★★  効果 ★★★★☆

有料老人ホームやグループホームに直接営業に行くことで、一度に多くの件数を獲得できます。
開所時に薬剤管理指導に入る薬局が決まっていることが多いですが、その質に満足しているかはわかりません。
既存の薬局よりも施設にメリットがある介入案を提案し、担当薬局を変更してもらえるプレゼンを行いましょう。
入所前の服薬支援医師の往診への同行臨時処方の即日対応定期的なケア会議への参加などは施設スタッフからも喜ばれます。

かい

入所前の残薬整理は外来服薬支援や在宅患者初期移行管理のチャンス!

服薬情報等提供料を他職種宛に
難易度 ★★☆☆☆  効果 ★★☆☆☆

介護の現場では薬剤師の介入がまだまだ浸透していません。(これは薬剤師の努力が足りていないのかもしれません。)”
1日かけて通院する足の不自由な高齢独居の方”や、”通院に合わせて遠方から親族に来てもらわなければならない方”などの悩みを抱えた患者は数多くいます。
しかし、そのような方々に設定されたケアプランにおいて医療の訪問サービスが加わっていないことが多いです。
訪問診療や訪問薬剤管理指導は上記のような患者にとって非常に有用な医療サービスであるはずです。
高齢ながら通院や服薬管理を自身で行っている患者には訪問薬剤管理の案内を行い、その旨を医師やケアマネージャーに文書で共有しましょう。
その際、残薬整理や外来服薬支援などの介入を行い合わせて報告すると薬剤師の必要性が他職種にも伝わりやすいのではないかと思います。

かい

ケア会議で意見を聞くと「薬剤師が薬局外で働くイメージが湧かない」との声が非常に多いです。訪問薬剤管理指導が保険適応ではなく実費で高額だと思い込んで利用を避けていたと言われたこともあります。
実際の介入例や介入までの流れ等を積極的に発信し始めたところ、すぐに依頼件数が増えて驚きました。

薬剤師が働きかけて在宅医療を開始する

訪問薬剤管理指導の必要性を医師に提案する
難易度 ★★☆☆☆  効果 ★★★★★

薬剤師主導で在宅医療が開始するケースもあります。薬剤師が医師に対して訪問薬剤管理指導の必要性を情報提供し、医師からの訪問指示を受けることで成立します。
ここでいう、訪問薬剤管理指導の必要性とはどのようなケースが想定されるでしょうか。

  1. 高齢夫婦あるいは独居
  2. 家族やケアマネジャーなどが来局している
  3. 飲み忘れや飲み間違いがある      :重複投薬・相互作用防止加算(残薬調整)の記事リンクはこちら
  4. 処方薬の種類や服用時点が多い     :服用薬剤調整支援料12の記事リンクはこちら
  5. 複数の診療科を受診している      :外来服薬支援料1の記事リンクはこちら

上記に該当する患者が思い浮かぶでしょうか。算定実績を頼りに抽出してみてもよいかもしれません。
その方は訪問薬剤管理指導の実施によってアドヒアランスやQOLが大きく改善する可能性の高い患者です。
もしその患者のかかりつけ薬剤師があなただったら、かかりつけ薬剤師が自宅に訪問してくれるこれ以上ない良いサービスですよね。

かい

私が医師に訪問に必要性を情報提供して、実現しなかったことはこれまでに一度もありません。
通院はできていても、自宅での服薬管理が困難な方が非常に多い現状を医師に積極的に伝えていきましょう。

4.在宅医療の今後の展望

実際に、2024年の調剤報酬改定では在宅領域における幅広い加点がありました。
在宅初期移行管理料や、在宅薬学総合体制加算、無菌調剤処理加算、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料1、在宅患者医療用麻薬持続注射法加算など、必要な介入なのに利益に繋がりにくかった部分が大幅に見直された形です。
在宅に積極的に取り組んでいた薬局はプラス改定になったのではないでしょうか。

この在宅への取り組みを促す形の改定は今後も続いてい行くと予想されているため、
現時点で在宅医療の実績が不十分な薬局ほど早急に取り組むべき課題といえるでしょう。

近年は終末期における療養病院ではなく自宅で行われることが多くなってきました。
がん末期の麻薬による疼痛管理や、容体の急変に対応できる体制の整備が薬局に求められています。
在宅医療において求められている理想は、「入院中と同等の医療サービスを自宅で受けられること」です。

しかし初めて在宅医療に参入するにあたっていきなりそのクオリティでの在宅医療開始は難しいと思いますので、
目指すべきは日頃来局されている患者の中で訪問診療の必要性のある患者を見つけ、主治医に訪問薬剤管理指導指示を出してもらうことになるでしょう。

かい

まずは地域の中で一番頼れる薬局になることを目指しましょう!

5. 訪問薬剤管理指導の実施が難しい店舗条件

都心部では24時間365日対応できる体制や、注射剤の調整が可能な環境が整っていなければ訪問の依頼がこないようなエリアも出てきています。
「在宅専門薬局」と呼ばれる在宅医療に特化した薬局も増えており、地方に比べると競争が激しくなっております。

現実的には1人薬剤師の店舗などは訪問の時間が十分に取れないかもしれませんが、定期的な配薬や支援はスケジューリング可能ですので、私のエリアでも1人薬剤師で個人在宅を何名か担当している店舗があります。

現時点で対象になりうる患者が浮かんでこない場合は、近隣の患者にかかりつけ薬局として選んでもらえるような取り組みを行うなど、面薬局としての機能を充実させて対象患者を呼び込むところから始める必要があるかもしれません。

しかし、高齢化が社会現象として加速する中、需要は確実に増大しております。
あなたの薬局に在宅医療を行ってほしいと思う患者さんは確実に存在していると思います。
あとはマッチングするための行動だけです。

かい

努力次第でどんな薬局でも実施可能と言わせていただきます!

まとめ

いかがでしたでしょうか?

訪問によって医療の質が低下することは非常に少ないため、在宅医療開始の提案は想像よりも通りやすいです。
この提案により患者や医療機関からもより信頼されるようになりますので、地域に根差した薬局であるためにもぜひ薬剤師からの提案で在宅医療をスタートさせていきましょう。

在宅医療は医師が自宅へ訪問して診療を行い、薬剤師が患者に合わせた配薬・服薬支援を行う「自宅で完結するサービス」であり、高齢者にとっては非常に有用なサービスです。2024年の改定により在宅医療はさらに加点されました。
残念ながら今後高齢化はさらに深刻化していくため、調剤薬局において在宅医療への参画は必須になる日も近いです。
今のうちから行動を開始しましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。皆様の薬剤師ライフのお役に立てると嬉しいです
今後ともよろしくお願いします。

記者: 早乙女 かい

編集者の座談会

かい

皆さんの店舗は在宅の訪問実績はいかがでしょうか。

つかさ

エリア内で多い店舗だと月に約80件ほど算定できています。
医療モールですが訪問診療に積極的な先生なので。

みさき

すごい!そのうち個人宅の件数はどのくらいですか?

つかさ

単一だと30件ぐらいかな。

みさき

私の店舗は総合病院門前ですがガン末期の緩和ケアが多いので、
月によってだいぶ差はありますが、月に15件くらいです。
8割くらいの患者は麻薬を使用しています。

かい

お二人ともなかなかの算定実績をすでにお持ちですね。
どのように依頼が来るのでしょうか?

みさき

無菌調整が可能な薬局が地域に少なくて、薬剤師会からの依頼で門前の総合病院以外の患者も多く受け入れています。

つかさ

緩和ケアが必要ならみさきさんの薬局に紹介するという流れが確立しているんだね。地域にとって必要不可欠な薬局になっていますね。
かいくんのところはどうなんだい?

かい

在宅医療に積極的に取り組んでいなかったエリアということもあって、
お二人と比べれば件数が少なくて…ここ最近も色々な営業活動を行ったんですけれども。

みさき

営業ってどんなところに行ったんですか?

かい

直接診療所へ行って近隣の患者の紹介をお願いしたり、
高齢者施設へ行って、今の薬局よりも施設がやりやすい形での
訪問薬剤管理指導ができますよと案内したりしました。

つかさ

それは大変でしたね。
実際成果はどうでしたか?

かい

往診同行可能を理由に変更してくれた施設が1件と、
既存薬局の負担分散のために患者半分を分けて担当させて
頂くことになりました。

つかさ

すごいですね!
最近の競争が激しい中で十分な成果が出ていると思いますよ。

かい

もともと少しずつ増やしていたこともあって、なんとかエリア4店舗すべて地域支援体制加算は維持できそうです。

つかさ

私の管轄では10年前から地域でいち早く積極的に在宅医療に取り組んでいたので、営業に行けばそれだけ増える時代でしたね。
一度関係性をつくれれば、新しく始めるたびに医師やケアマネから訪問の依頼が来ました。

施設は個人の運営ではなくて何ヶ所も運営していることが多いので、
そこに気に入ってもらえると系列の他の施設も任されたり。
新規の開設のときに真っ先に依頼が来るようになるね。

かい

一度そういった関係を作れると強いですね。

みさき

今ゼロからと考えるとなかなか厳しそうですね。

かい

ところで、窓口でのやり取りから新しく在宅に移行しようってなった患者はいますか?

みさき

いますね。病院は付き添いなどで通院している方で、薬は後日こちらが訪問して届ける方が数名います。

かい

家族が薬の受け取りに来ることもありますよね。そういう方は自宅での管理も難しそうですし。

つかさ

個人宅は地域支援体制加算の要件としても求められていますからね。
意義もとてもありますし、これからの薬剤師としては積極的に頑張っていきたいところです。

みさき

とはいえ個人宅一件の訪問の費用対効果を考慮すると、効率良い方法ではないというジレンマはありますね。

つかさ

2024年の改定で上乗せがあったし、特にみさきさんの薬局はかなり評価された形になったんじゃないですか?

みさき

そこはうれしかったですね。
今まで注射剤の麻薬の単剤充填は1~2時間掛けても点数はついていなかったので、正直な所、少し依頼の引き受けもセーブしていました。

つかさ

時間と労力をかけてて、技術的なものも必要なことに取り組んでいたわけですから、しっかり評価されて良かったです。

かい

患者負担金は増えてしまいますが、自宅で療養したいという患者の要望を叶えることができ、家族も含め満足してくださる印象です。
改定後の点数でも決して高くはないと感じます。

みさき

改定後にセーブしていた分色々な方面に声掛けしたら、すぐに緩和ケアの在宅が1ヶ月で4人増えました。

つかさ

地域によってはまだまだ薬局の介入が不足しているところはたくさんあります。門前じゃなくても、近隣に在宅に興味がある先生に対して薬局から積極的にプレゼンに行くことで紹介してくれることも多いでしょう。

かい

まだ在宅始めてないところはまず1件、個人在宅やってみるとすごくいいんじゃないかなと思いますね!

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